これからの我々の日常生活や生産活動を支えるユビキタス社会基盤のあり方は,人間と自動化機
械・情報機器のような人工物が渾然一体に繋がれ,多数の系が相互に影響し合って進化するような生
態学的特性を有する系となる.そこでは,個々の場所や時間の中で動的に変容する対象の多義性を十
分考慮に入れ,それとの関係の相互性の中で事象を捉えていくことのできる新たなシステム設計論の
確立が求められる.本研究では,周囲環境の個別性や多様な利用者・利用状況に応じて,しなやかに
自ら機能を創成できる新たな人工物システムの設計論を確立する.とりわけ人間や生体のような「主
体性」のある存在が関与する系においては,システム要素間の相互作用はますます複雑さを増すこと
になるが,これは,人間・生体が自らを取り巻くところの環境や社会を主体的に意味づけ,価値づけ,
自らの棲む世界として秩序化していくとともに,取り巻く文脈からの強い影響を受けることによる.
本研究では,このような「多様性の生成と選択」の機構を「記号過程(セミオーシス)」に求め,記号
の生成・利用のダイナミズムの観点から,生体細胞から社会組織に亘る様々なレベルにおける適応シ
ステムの同形性を見いだし,個々のシステム要素が外部・内部の物理的環境との相互作用を介して機
能が形成される一般的過程に迫る.本研究では,生体組織の機能形成の再生医療への応用,人間と協
働できるロボットの開発,個性あるまちづくり,現行製品の製品構造に捕われない革新的製品開発プ
ロセス,などの具体的成果とともに,これまでの「つくる設計論」に代わり,快適さと安心を享受で
きる持続性社会実現に向けた「育てる設計論」の確立を目指す.