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記号過程を内包した動的適応システムの設計論
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              日本知能情報ファジィ学会関西支部・学術創成研究費
               「記号過程を内包した動的適応システムの設計論」共催特別講演会
      1. 日時:2010年5月13日(木) 13:00〜16:30
      2. 会場:京都大学 吉田キャンパス 工学部物理系校舎 314室
      3. プログラム:
      4. 13:00〜14:30???? 講演1「共生のための脱システム論の探究」
        片井 修 氏(京都大学名誉教授)
      5. 15:00〜16:30???? 講演2「順序数型選好モデルとその妥当性の検証」
        菅野 道夫 氏(European Centre for Soft Computing, Spain)
      6. 参加者:29名

     

日本知能情報ファジィ学会関西支部との共催で,京都大学名誉教授の片井修先生とEuropean Centre for Soft Computing連携特別研究員の菅野道夫先生を講師にお迎えし,特別講演会を開催した.
片井先生には,「共生のための脱システム論の探究」と題して,自然と人為の共生をテーマとした独自のシステム論(脱システム論)についてご講演いただいた.まず,理論の基礎として,自然システムの「区切れない」あるいは「分けられない」という性質とその考え方に基づく実践活動について,自然農法やパーマカルチャー,べてるの家などの具体例をもとに紹介された.そして,そのようなシステムにおいて紡がれる時間的・空間的な「重層性」の構造を,ライプニッツ時空論の「共在の秩序」と「継起の連鎖」の観点からとらえ,パースの存在グラフとペトリネットを組み合わせて読み解く手法を説明された.さらに,このライプニッツ時空間をさまざまな個が相互に連関しながら進展していく重層的な成り立ちを支え育む土壌とみたて,情報やコミュニケーション,コミュニティの深層を究明する新たな学域「情報土壌学」の構想について説明された.また,区分することで記号化しシステム化することでは決して伝えられないものを共有するために,ナラティブ(物語り)の果たす重要性について説かれた.
菅野先生には,「順序数型選好モデルとその妥当性の検証」と題して,選択肢の属性を順序数として扱う選好モデルの最新の研究成果についてご講演いただいた.講演の前半は,順序数型選好モデルと対比される実数型選好モデルの一連の研究が紹介された.そこでは,期待効用理論では説明できない人の選択傾向をAllaisパラドクスが例示するように,先のモデルでは説明できない反例を順次提示していく形で,Choquet IntegralからSymmetric Choquet Integral,CPT Choquet Integral,Bi-Capacity Choquet Integralへと,より複雑な選好構造を説明する期待効用計算モデルが発案されていった経緯を解説された.講演の後半は,人が実際に行っている可能性の高い順序数型の選好モデルの開発に話題を移し,S-IntegralからSymmetric S-Integral,CPT S-Integral,Bi-Capacity S-Integralへと,実数型のモデルと対応する順序数型選好モデルの開発について説明いただいた.それらのモデルが実際の人の選好のバリエーションをカバーできることを被験者実験で確認された一方で,もっとも複雑なモデルであっても説明することのできない選好構造が存在する可能性があり,さらなる探究が必要であることをSavage’s Omelet Problemの厳密な検討によって示された.
いずれのご講演においても,両先生が提示されたさまざまな理論やそれらに関係づける深い洞察をきっかけに活発な議論が展開された.人が関与する記号過程をどのように読み解くかについて,また,そのような個を包摂する関係や環境の分析について,よりよい視座を得る機会となった.


Prof. Katai
片井先生ご講演の様子

Prof. Sugano
菅野先生ご講演の様子